
夕暮どきにポートランドを走っているあいだ、またつぶやきがはじまっていたが、今度はまえよりもはっきりしており、耳をかたむけてみると、アセナスに関するまったく常軌を逸したたわごとをまくしたてていた。アセナスについて一群の妄想を織りあげているので、アセナスがエドワードの神経をまいらせているのは明白だった。エドワードは目下の苦境が一連の長い苦悩の一つにすぎないと、声をひそめてつぶやいた。アセナスはエドワードを完全に自分のものにしようとしており、エドワードはいつの日か逃れられなくなることを知っていた。いまですらアセナスは、おそらく一度に長いあいだもちこたえることができないので、やむをえないときにだけエドワードを自由にさせているにしかすぎない。アセナスはたえずエドワードの体を奪い、エドワードを搬屋自分の体にいれたまま二階に閉じこめ、名状しがたい儀式のために名もない土地へ行っている。しかしときとしてもちこたえられなくなり、そんなときエドワードは、どこか遠くの恐ろしい、おそらくは未知の土地で、突如として自分自身の体にもどっているのを知る。ふたたびアセナスがエドワードの体を奪うこともあるが、それができないこともある。エドワードはしばしば、わたしがこの目で見たように、見知らぬ土地で途方にくれることがある。そんなときにはものすごい遠方から家に帰る道を見つけださなければならず、何とか見つかると、人をやとって車を運転してもらう。
最悪なのは、アセナスがエドワードの体を奪っている時間がしだいに長くなってきていることだった。アセナスは男――完全な人間――になりたがっている。そのためにこそエドワードの体を奪っているのだ。アセナスはエドワードが優秀な頭脳と弱い意志の持主であることに感づいていた。いつの日か、アセナスはエドワードを体から追いだし、エドワードの体を奪って姿を消すことだろう――エドワードをおよそ人間とも呼べない女の抜け殻のなかに置き去りにし、父親のような大魔道士になるため、姿を消すことだろう。エドワードもいまではインスマスの血脈について熟知している。海から来たものと交わりがあったのだ――血も凍るほどに恐ろしい……そして老エフレイムは、そ老齢に達したとき、生きながらえるために恐ろしいことをした――老エフレイムは永遠の生を夢見ていた――いまその意志をアセナスが実現させるだろう――既に企ての一つは上首尾におわっている。
エドワード・ダービイがそんなことをつぶやきつづけているあいだ、わたしはじっくり顔色をうかがって、チェサンクックで感じとった変化しているという印象を確信するにいたった。理屈にあわないことだが、エドワードはいつも以上に体調がよくなっているようだった――たくましくなり、正常な発育を示し、放埒《ほうらつ》な習癖による病的なまでの皮膚のたるみは跡形もなかった。それはまるで、甘やかされ放題の人生において、はじめて真に活動的になり、相応の運動をおこなっているかのようで、わたしはアセナスが活溌さと敏捷さという不慣れな道にエドワードを押しやったにちがいないと判断した。しかし目下のところ、エドワードの精神状態はあわれむべきものだった。妻について、黒魔術について、老エフレイムについて、ある事実について、途方もないことをつぶやきつづけていた。ある事実の告白はわたしでさえ思わず納得してしまうほどのものだった。エドワードは、わたしがかつて禁断の書物をひろい読みして記憶している名前を何度も繰返し、とりとめもない話を貫いている首尾